楠木
ベッドから飛び起きて、ようやく何が起こったのか昇は悟る。
水をぶっかけられたんだ!
しかも氷が入ったとびっきり冷たいやつを!
「な、なぁにしやがるっ!」
自分の体を抱きしめながら凄まじい怒声を昇は発する。
「おはようございます、兄さん。すこぶる快適なお目覚めのようで」
しかし、瑞樹はそんな昇を意に介さずに平然と見つめ返すだけ。この場に瑞樹を知らぬ他の人間が見たら、彼女の笑みをこう評したと思う。
鬼ぃっ!
穏やかな風がなでるようにカーテンを吹き付け、ほのかな桜の香りが風に乗って届く。
ほんの数人の生徒が机を寄せ合って弁当を食す教室では、机に顔を預け、横を向きながら昇がスースー、と気持ち良さそうに寝息を立てていた。
そこに、
「いたいた。言った通りだろ、レオナ?」
「……楠木さん、何も起こさなくても」
「駄目駄目。昨日のお礼はきっちりしとかないと」
不敵な笑みを浮かべ司影はそっと戸を引く。玲於奈は顔をややしかめ、困惑気味、あるいは苦笑気味に学生服を着た彼女の後に続く。
周りの生徒にも司影は人差し指を口の前に当てて『シー』とジェスチャーする。それに応じて数人の生徒も面白おかしく、司影に全く同じポーズを返す。それを見て笑みを洩らした司影はそろりそろりと忍び足で昇の机まで歩み寄ると大きく息を吸い込み、
「っ、起っきろぉぉぉぉおお!」
目一杯の大音量を口から迸らせる。
ガタンッ! ドシャンッ!
跳び起き、次いで机から思い切り顔を上げた昇は、その勢いで椅子から転げ落ちる。
昇は何が起こったのかと眼をパチパチと瞬かせ、
「おっはよー、昇」