手袋
「はあ、はあ、はあ……なんで昼食前に、こんな疲れなきゃいけねえんだ?」
木陰に陣取り、昇は肩で息をしながら足をみっともなく草っ原に投げ出している。昨日は昇がパンを昼食として奢ったので、今日は司影の奢り。丁度彼女は購買部にひとっ走りしている所だろう。
「……楠木さんが、『おれい』をしたからでしょうね」
律儀に答えているのは真面目だからか、あるいは天然か。
汗一つかかずに昇の隣りに座る彼女を見つめ、昇は失礼極まりない思考をしてしまった。その考えを振り払うように首をブンブンと振り、空を見上げる。
鮮やかな緑が陽光に照らされ、それに織り成す影のコントラストが美的感覚をくすぐる。その下に吹く風を、心地よく感じるための運動だと思えば先程のケンカも悪くはない。司影とのケンカはいつもの事。二人ともその切り上げ時は心得ている。
もっともそんな事だから、司影は字久から『万年漫才夫婦ですね』とからかわれ、字久抹殺木刀を片手に眼をぎらつかせるのだが。あれは本気で骨の一本位は叩き折る気だろう。自分とのケンカとは違って。
そんなふうにそびえる木を見上げながらぼんやりしていたが、横から視線を感じたので昇は顔をそちらに向ける。
玲於奈が、ジッと白い手袋をした左手を見ていた。