字久
「そこで私は方針を変え、翌日行動に移したのです。待ち伏せする事にしたのですよ。アパートのすぐ近くでばれないようにね。それはそれは大変でした。昨夜は春とは到底思えぬ寒風が吹き荒び凍える月が哀愁を醸し出す様にこの私を」
恍惚とした表情で延々と発せられ続けるマシンガン。ここまで自己陶酔していると遮っても無駄だ。昇は適当に相槌をうち聞き流す。
「……たのですが、彼女、今日の朝方五時になっても帰ってこないんですね。やられました。ええ高遠字久の初敗北です」
朝の五時になっても帰ってこない?
アパート前で待ち伏せる字久を恐ろしく思い、クラスメイトの家にでも泊まったのだろうか?
「三年九組の皆さんにも聞いてみました。彼女が昨夜は誰かの家に泊まっていなかったかと。待ち伏せる私を警戒してそこに一泊したと踏んだのです。あ、聞き出したのは勿論今日そこに押しかけるためなのですが」
……手際が良い、と言うか、しつこい、と言うか……
「……いい加減にしなよ、あんた」
あまりのひどさについタメ口になってしまう。
だがそんなのはどこ吹く風、字久は喋り続ける。
「ですが、誰も『知らない』としか答えないんですね。転校したてのせいか、ほとんど会話らしい会話もしておらず、とまあ、当然と言えば当然の事です。しかしそれでは昨夜の説明がつきません」
字久は額をトントンと神経質そうに人差し指で叩いている。
「念には念を入れて、全校生徒に聞き出しました。一時限から五時限及び昼休み、つい先程の放課後も使って調査を」