黒き光
青く、静かな空間に響くのは靴音。
そして、愚痴っぽい独り言。
「……ゴタゴタしてきやがったな」
魔は、魔を呼び寄せる。
魔術師間にある格言通りだ。
自身の『魔封じの刻印』を手始めに、殺人鬼とそれに対する仮面。
そして、自身の知る最強の魔術師、播磨塔也殺害犯。
「マジで堪ったもんじゃねえ」
昇にしては珍しい、苦々しい口調。誰が敵で、誰が味方なのか。何を目的に彼等が動いているのかもわからない。
「俺を殺そうとしていた奴が、『殺人鬼』か『仮面』なのか、あるいは両方か。それだけでもわかれば、少しは状況がつかめるんだが」
とにかく、相当な準備が必要だ。
数年前から試している魔術方程式は未完のもの。これが使えれば、何とか奴等にも対抗出来そうなのだが。
昇は戸を開けて教室に入り、
「っと、ここだったが……よし、確認終了。大丈夫だな」
そう言って床に左手をペタペタと押し付けている。白い手袋を外した、その左手を。
「これで二つ目だが、今日はこの辺で」
いざという時は、なんとかここに相手を誘い込む。そうすれば、自力だけでは限られた魔術しか扱えぬ自分にも勝機があるはずだ。
両手をポンポン、と払い、手袋をし、戸を開けて教室を出ると、
「……何だ、これは?」
普段よりも随分暗く見える。夜、だということは先刻承知だ。
三日月が空にはあるはずなのに、その明かりが全く差し込んでこない。影と闇。無音の中で黒き光だけが昇を照らしている。