三日月の絆その3

真の名

真の名

おちつけ。

 冷静になるんだ。

 昇は必死に自身に言い聞かせる。

 ただでさえ『固有結界』が敷かれたこの状況では、自分が圧倒的に不利なのだ。少ない勝機をものにするには、あるいは隙を見て逃げるには、左手の『刻印』と冷静な判断力が不可欠。

「相当驚いているようね、昇君」

 口調まで別人だ。慣れた手付きで折り畳み式のナイフをくるりと回す。その変化に驚きを感じ、昇は眼を剥く。

「……操られている、のか?」

 考えられなくはない。昨夜にでも何者かに魔術による暗示でも掛けられていれば……

「操られているのなら自我なんてないでしょう。それでも魔術師、昇君は?」

 両肩を竦める彼女の指摘は的確だ。操作されているなら打ち込まれた方程式に従い、目的外の事は出来ないはず。こんなふうに相手を嘲ることなどもっての他。

昇はぎり、と奥歯を噛み締める。

「そうそう、貴方にはお礼をしておかないとね。こうして私を表に出してくれたんだから」

腰を落とし、いつでも相手の攻撃に対応できる姿勢のまま、訝しげに昇は眼を細める。

「……表に出してくれた?」

「『魔封じの刻印』。とても便利よね。どんな魔術方程式もバラバラに出来ちゃうんだから」

 何を喋り出すんだ、こいつは? 

くすくすと笑う彼女の笑みは繊細で、美しく、この上なく残酷に見えた。

「名前というものには力が宿る。それくらい魔術師なら知っているでしょう?」

「『真の名』、か?」