御名答
御名答、という簡潔な返答。
名前には物質や人物の本質的な力が宿るという説。魔術師の間では素養がその名に表れると言われるが、現実には些細なもののはず。名前だけでその本質を束縛することは出来ない。
何故、ここでその説が出てくるのか。
「彼女の名前を考えてみれば、解答に辿り着かないかしら?」
闇の彼方から聞こえる声。
彼女? 名前?
司影……影を司る者。
「まさかっ! 『対極分割』か!」
切迫した昇の声が通路に反響する。
「そう、私と司影は別物。『楠木』、は司影が引き取られた養子先の苗字。苗字だけを気にして、名前にまで気を配らなかったのは痛いわね。
ところで私の名前なんだけど、死をもたらす影で、『死影』、なんてどうかしら?」
笑っているはずなのに、眼が全く笑っていない。感情と表情が表裏一体の如く、異なる性質をもって眼と顔に表れている。
「……それでか。一昨日の昼間には魔力が残留したのは」
「正確には起き抜けで、調節が巧く出来なかったから洩れたんだけどね」
音も無く『死影』が一歩を踏み出す。
「とある坊主が必死に封じたせいで、私は全然表に出られなくなったわ」
とある坊主?
……ひょっとして、『あの人』か?
「そんな時に、貴方が『魔封じの刻印』で封印を解体してくれたのはとても嬉しかったわ」
『こっくりさん』の時に使ったあれか!
舌打ちし、昇は左手を掲げる。
「だから、きっちりお礼をしないとね!」