何が
「何があったのかすら、よくわかっていないというのが実情です。今わかっている事は、壁の血痕は叔父様のものであるという事と」
いくらか躊躇った後、
「その魔術師が、叔父様を誘拐したという事」
よほどの勢いで出血したのか、壁一面に広がっている血。
昇は瑞樹の声を後ろにそれをぼう、と見つめるだけ。
そんな中、瑞樹は苦々しく続きを述べた。
「……この傷の深さでは、叔父様は現在、生きてはおられないであろうという事だけです」
訳がわからん。ソファーにどっかりと腰を下ろし、昇は髪をバリバリと掻きはじめる。
播磨搭也が殺された、という驚くべき事実。
播磨家の第二席、播磨搭也。彼は昇が知る限り最強の魔術師。探索、補助、回復とあらゆる魔術を行使するが、特に目を見張るのは魔術方程式の実行速度。他の魔術師と比べても粒ぞろいの播磨家。そんな彼等と比べても、半分の時間すらかからない方程演算には舌を巻いてしまう。彼を殺せる魔術師ならば、当主たる播磨鋼耶その人が病床に伏せている今、播磨には単独で殺害犯にかなう者はいないだろう。